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野菜・卵
中村一敬さん

自分が食べておいしいもの、
好きなものをつくる
“おおらか”農法。

マルシェで話の合う飲食店に出会うと、テンションが上がります

糸満で農業を営む中村一敬さんは、10年前の就農当初から「農業で食べていくための答えは農薬じゃない気がする」と、無農薬無化学肥料での栽培を続けています。

中村さんは、3人の娘さんを子育て中の働き盛り。「たまに、自分は農家なのか農的生活をしている人なのかわからなくなるときがある」と経済最優先ではないあり方を自認しながら、10年かけて仲間や理解者を増やしてきました。現在は、ホテルやレストラン、飲食店の契約農家として依頼されたものをつくりつつ、自ら新しい品種の提案も。ずっと植え続けているのは、島にんにくと島やさい。ジャガイモ、レタス、ミニトマト、かぼちゃをそれぞれ多品種栽培しています。

2016年はじゃがいもの品種を増やし、「インカのめざめ」「アンデスレッド」「アローワ」「ジャガキッズパープル」「グランドペチカ」「男爵」「メークイーン」「シンシア」「ノーザンルビー」の10種類をつくり、少しずつ出荷してきました。

10年のあいだには、「畑に草一本はやすな」「除草剤をまけ」と言われたことも。また、今でもまっさらな畑を目の前にして呆然とすることがあるし、農業のひとり作業がさびしく、自然に押しつぶされそうになることもあるそうです。

また、野菜のブランド化は無農薬無化学肥料だけでは難しく、「本当は3倍の値段で売りたいけれど、1.5倍ぐらいしか値段を上げられない」現実も。「作物を100植えて、慣行農家は8、9割現金化しています。有機農家は1割とか、よくて5割。オートメーション化されている慣行農法と違って均質に育たないので、人の目と手で選別して収穫しないといけない手間もかかるんです。」

そう話す中村さんですが、まとう雰囲気はあくまでもおおらかで無邪気。そのことを伝えると、「今は満足しているし、楽しんでますよ。」と笑顔が返って来ました。「マルシェで人が集まったときに、同じ考えを持つ飲食店さんと出会って、話をわかってくれたりすると、すごいテンションが上がります」。

畑で農産物をつくるだけでなく、自らつながりを広げる。「販路開拓」などというと一気に義務や”やるべき”タスクの趣が出てしまいますが、中村さんは自然体で楽しんでいるようです。

正直 おおらか シンプル 無邪気 ありのまま

正直 おおらか シンプル 無邪気 ありのまま。会話のはしばしににじみ出る中村さんの人柄は、有機農業のやり方にも現れています。農業を始めた当初は化学記号と計算式をさまざまな本から学び、畑に反映させていました。ところがあるとき、世の中にずらっとある有機肥料を使いこなして味や収量を上げることがめんどうくさくなります。「気づいたら自然を人工的にコントロールしようとしてて、『これ、有機肥料でも化学肥料でも変わらないんじゃないの?』と思ってしまって。」

今は、肥料をなるべくいれず、畑をたっぷり休ませているそう。耕して種を撒き、収穫する以外に手を加えているのは、基本的には土に米ぬかや菜種油の絞りかすをまくことと、草刈りのみ。「できたらできたで、できなかったらできなかったでいいんじゃないの??」と見守り姿勢を決め込んでいます。

だから、中村さんの畑でできるのは、自然の力で自分で育った野生的な野菜なのです。

「子どもが3人になったし、一年中現金化できる収入の柱に」と昨年始めた養鶏も、「こっちのほうがいいと思うのが普通じゃないかな?」と、1羽ずつゲージに閉じ込めて動けないまま卵を産ませるゲージ飼いではなく、地べたを歩き回れる「普通」の状態で平飼い。じゃがいもと同じように、卵もカラフルにしたいと、多彩な種類の鶏を飼いたいと構想をふくらませています。

理想は、直売で買いに来てくれること

今後について尋ねると、「今、売り切れていない分を、本当は全部売りたい」と中村さん。

値段が合わない時に出荷したら赤字になるから。
売りにくい規格外品に手間をかける時間がもったいない。

2つの理由で畑にあるまま放置して、結果畑に戻ってしまっている”放置野菜”を食べ手に届けたい。この希望を実現するために、CSA(Comunity Supported Agriculture)のしくみをつくり、食べ手と直につながり、畑まで買いに来てくれる「農薬が入り込むスキがない」農業のかたちを模索しています。

安心、安全、ブランド銘柄に”体に効く”機能性、一過性のファッション性ブーム、、ありとあらゆる食の情報が錯綜し、いちいち真に受けていると何を食べればいいのかわからなくなってくるような世の中ですが、中村さんは「収穫後すぐ 栄養価高いときにつくったそばで食べるのがいい。」とひとこと。「自分が食べておいしいもの、好きなものをつくっている」中村さんのような農家さんと直接つながって、畑から直接、買う。そんな原点回帰の当たり前が、すぐそこに見える明るい未来であるように思います。