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オブジェ・器
今村能章さん

地球の原理に想いを馳せ
人間のあり方に一石を投じるオブジェ
こだわるのは自己表現の純度

使いやすさとか、観光客向けとか
そういうことで陶芸してない

今村能章さんがつくるものには、一目見たら忘れられない存在感があります。 その源泉は、「器を機能として考えると、自分じゃないものが入る。重ねられるカップをつくろうとする時点で、なにか不純なものが入ってる。」と語る、自己表現の純度への飽くなき探究心。生活のためにつくる器などの「商品」づくりと、伝えたいことを口ではなく語るための「作品」づくりの違いを、つくりながら模索しているといいます。

今村さんにとっての「作品」づくりは、地球の原理や人間のあり方を、自然を構成する土や、熱、重力というエネルギーを使って出現させる研究。たとえば、陶器とガラスを融合させた作品は、ワイングラスのかたちを目指すも、ほとんどが焼いている最中に割れてしまいます。

「どこから土で、どこからガラスという境目は、地球にはないんです。でも、混ぜて焼くと、土は縮みたいけどガラスは縮みたくないから割れます。」

日々、実験と発見の繰り返し。次はあれとあれを混ぜて焼きたい、と次々にアイデアがわき、「自分が関与できない部分があるのがおもしろい。自分の関与がどこまで及ぶか、という研究がおもしろい。自分の満足だけじゃなくて人も満足させるには研究。」と言い切ります。

とけたガラスが無数の穴から生き物の触手のようにすべり出ているオブジェは、動くことをやめない時間が、時間があるから働く重力ごと、瞬間冷凍保存されたよう。じっくり見つめていると、深い感覚を刺激されます。つくり手である今村さんは「そもそも1秒という単位で生きてることに違和感があって。ゆっくり落ちていくガラスの趣で、時間軸からずれるという感覚を表現したかった」。「時間とは」「物質とは」「地球ができ始めたころのこと」「海の満ち引きと月の関係」。今村さんが根源的な問いに意識を向ける精神活動が表出した作品群には、だからこそ、日常とかけ離れた異次元から本質をつき、見る人は目を奪う力があるのでしょう。

わたしたちは、実は摩訶不思議な世界を生きている。今村さんの作品を見ていると、そんな、魅惑的で楽しげな気分がむずむずと湧いてくるのです。

自分にしかつくれないものを
つくることは、沖縄だからできる。

沖縄の伝統工芸「やちむん」の人気は上々で、作家は増え、沖縄で生み出された食器が東京のセレクトショップに並ぶ昨今。今村さんは、市場が求める沖縄らしさや、買い手のニーズありきのものづくりから一線を画して、沖縄らしさを体現しています。

そのありようは「『沖縄にいないとつくれない』って言い切れる。自分にしかつくれないものをつくることは、沖縄だからできる。」というひとことに凝縮されているよう。

たとえば、商品としてつくるカップですら、大量消費文明への疑問を呈する今村さん自身の自己表現。。「カフェの店長をしていたときに、イベントなどで使い捨てのプラスチックカップでスープを提供していたんですが、それが嫌だった。だったら捨てられない素材でつくろうとおもって、型をとってつくったのがこれです。」

それぞれの道を探求する飲食店とは、発注者→受注者ではなく、つくり手×つくり手の関係性で仕事をします。創造性のかけあわせをトコトン楽しんだ結果生まれるのは、誰も見たことがない世界。

たとえば、北谷で沖縄・鹿児島産の黒糖や島ザラメを使ってチョコレートをつくる専門店「TimelessChocolate」は、メニュー開発前に「この器にあったメニューを開発したい」と今村さんの器を持っていったそう。その後「ベロのハイヒールをつくって」と依頼があり、最終的に溶けたアイスがハイヒールの坂をすべり落ちて下のチョコレートと邂逅するメニューが誕生しました。

また、栄町のコーヒー専門店ポトホトとコラボレーションしたイベントでは、お客さんがまず器を選び、その器とお客さんの顔を見てコーヒーを選ぶ実験をしました。「お客さんは、器は選べるけどコーヒーは選べない。」やってみてわかったのは、「選択することよりも、選択してもらうことを心地よく感じる人もいる。」ということ。

今村さんはものづくりと同様、つくったものを届ける過程でもまた、実験をして発見。「お金儲けではなく、価値観の交換。ピントがあってれば、めちゃくちゃしても結局合う。そういう世界観はやっぱりある。」と、「自分にしかつくれないものをつくる」ことの先にある、楽しくて豊かではちゃめちゃな世界を体現しています。

「ものづくりとは、頭の中で展開される精神活動を解放し、ものというかたちある存在に発散することで、自分とひと、誰しもの創造性を刺激する活動。」今村さんの考え方、あり方からは、そんな、ものづくりの果てしない可能性が見てとれるのです。

自分にしかつくれないものは、誰もにあるはず。自分の内面が表われ出るようなものづくりを体験できる開かれた場をつくるため、Who made it?では、今村さんと一緒にものづくりを楽しむワークショップを開催します。